フン・タンは一応ヴェトナム民族音楽のトップレベルの歌手だが、これは普通の意味での「民族音楽」じゃない。ジャズのラベルからでているが、普通の意味での「ジャズ」でもない。似たようなものがこの世の中にまったくないみたい。(あればほしいから、ずっと探しているんだけど。)
実は、「フン・タンのアルバム」といっても、この音楽を考え出したのは作曲・編曲の凄腕のジャズ・ギタリストのNguyên Lê(ヌイェン・レー)。彼は「ヴェトナム人」といっても、ヴェトナム人の親を持つパリ生まれのフランス人で、長年いろんなヨーロッパのジャズのミュージシャンやアフリカのミュージシャンと一緒にやってきたが、95年当たり自分のいわゆる「ルーツ」を探すためにヴェトナム民族音楽を基にしたジャズのプロジェクトを始めて、そのためにやっぱりずっと(ヴェトナム戦争以来?)パリに住んでいるフン・タンを見つけたそうだ。最初のコラボレーションは彼の名前で発表された Tales from Viêt-Nam というアルバムだが、そのあとの4枚はフン・タンの名前ででている。ほかのメンバーはジャズの人、アフリカ系やアラブ系の人、そして最新のアルバムには琴を弾く日本人の女性まで、といったパリならではのミックス。とにかくすばらしい。
(ヌイェン・レーのほかのアルバムもなかなかいいが、それは別のときの話。)

ライブは最新アルバムとだいたい同じ7人のメンバーで、(在パリの)フランス人、ヴェトナム人、カナダ人そして日本人の国際的な組み合わせ。コンサートの途中で写真は取れなかったが、終わった後、なんとアーティストとのQ&Aもあった。映画祭などにはよくあることだが、コンサートでは珍しい、というか今までそんな経験がないと思う。アートフェスティヴァルの中のイベントだったからかもしれないがよくわからないが、とにかくQ&Aも終わった後、直接ヌイェン・レーとフン・タンに直接話することもできたし、プログラムもサインしてもらった。(ああ、こんな歳で「アイドル」の前で興奮するなんてね。)